先日は強風のため、途中の三鷹駅で散策をあきらめてしまいましたが、改めて三鷹から

吉祥寺方面へと玉川上水沿いに歩いてみました。

玉川上水といえば太宰治が1948年6月に愛人と入水自殺した川ですが、

三鷹には太宰治の墓地があります、上水へ行く前に立ち寄っていく事にしました。

太宰治は三鷹駅から十数分の禅林寺というお寺に埋葬されています。

死後も人気があり、毎年の誕生日には桜桃忌が開催され多くのファン

が訪れているそうです。

桜桃忌の桜桃は太宰治と同郷の青森県出身で親交があった今官一氏

が名づけたそうですが、桜桃は太宰治の晩年の作品名で、その中では

こんな一節があります。

「 〜 はっきり言おう。くどくどと、あちこち持ってまわった書き方をしたが、

実はこの小説、夫婦喧嘩(ふうふげんか)の小説なのである。


「涙の谷」   それが導火線であった。この夫婦は既に述べたとおり、

手荒なことはもちろん、口汚(くちぎたな)く罵(ののし)り合った事さえな

いすこぶるおとなしい一組ではあるが、しかし、それだけまた一触即発の

危険におののいているところもあった。〜」

さらに、最後近くでは

「 〜私は黙って立って、六畳間の机の引出しから稿料のはいっている封筒

を取り出し、袂(たもと)につっ込んで、それから原稿用紙と辞典を黒い

風呂敷に包み、物体でないみたいに、ふわりと外に出る。

もう、仕事どころではない。自殺の事ばかり考えている。〜」

涙の谷は夫婦の会話で主人公が妻からいつも忙しそうで、鼻に汗をかいている、

といわれ、妻に「お前はどこに汗をかいているのだと質問するのでした。

妻は、「この、お乳とお乳のあいだに、……涙の谷、……」と返事をし、

太宰は何もいえなくなってしまった。

涙の谷はラテン語で「悩み多い生涯」という意味になりますが、生活の疲れ、

障害のある子、そしてのがれるように愛人のもとへいき、子ども達が見た事

もない桜桃をまずそうに食し子どもより親が大事と虚勢をはっている姿を

描いています。

それからわずか4ヶ月後に入水自殺していますが、なぜ桜桃忌なのかは

なんとなくわかったような気がしました。

彼の墓の前には森鴎外の墓があります。



作品「花吹雪」の中で太宰はつぎのように書いています。

「〜そのすぐ近くの禅林寺に行ってみる。この寺の裏には、

森鴎外の墓がある。どういうわけで、鴎外の墓が、こんな東京府下の

三鷹町にあるのか、私にはわからない。けれども、ここの墓地は清潔で、

鴎外の文章の片影がある。私の汚い骨も、こんな小綺麗な墓地の片隅

に埋められたら、死後の救いがあるかも知れないと、

ひそかに甘い空想をした日も無いではなかったが〜」

彼もこれで本望だったことでしょうね。

禅林寺をあとに玉川上水をあるきました。

このあたりが入水自殺した場所でしょうか....

道沿いに石が置かれています、太宰の故郷である青森県五所川原金木町産

の玉鹿石だそうで、慰霊のためでしょうか。

こんな碑もありました。

彼の小説、「貧乏学生」の一節が書いてありました。

玉川上水沿いに先を進むと山本有三記念館があります。

山本有三はこの建物で昭和11年から昭和21年まで住み、ここで代表作の

「路傍の石」を執筆したそうです、「路傍の石」は記憶が定かではないのですが、

学校の図書館で借りて読んだか、それとも映画だったかはあいまいです。

どっちにしろ、明るい内容ではなく、どちらかというと気が落ち込むような感じ

の印象でした。

建物は立派な洋館で大正末期の建築です、戦後、米軍に接収され返還後

は国に利用されその後、東京都に寄贈され、記念館として運営されている

そうです。

書斎の写真ですが、こんな部屋ならいい作品が書けそうですね。

山本有三記念館をでて上水沿いに歩くとほどなく井の頭公園となります。

公園の入り口付近には「ジブリ美術館」がありました。

なかなか、ロマンチックな建物です、ちょっと入ってみようかと思いましたが、

なんと入館は予約制となっていて、事前に申し込みが必要でした。

それにしてもすごい人気ですね。

こんな感じの外観で、楽しそうな雰囲気が伝わってきました。

井の頭公園は学生時代の友人が吉祥寺に下宿し、よく泊まりに

いった事がありました、弓道部だった彼につきあい公園の池

の周りを走った記憶がよみがえってきます、もう数十年たちました

が、彼は卒業後、山口県防府へ帰郷し、それ以来一回もあった事は

なく、年賀状だけのつきあいとなりましたが、

彼のいかつい人相だけはよく覚えています。

たのしくもあり、むなしさもあった青春時代でした。

まだ3月半ばなのに公園ではもう桜がさいていました。

井の頭公園をあとに吉祥寺駅へと向かい、散策も終わりです。

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